注意事項
必ず当ブログの免責事項を読み同意した上で閲覧頂きますようお願い申し上げます。
はじめに
この記事では最軽量のLighthouseコントローラー"Joydra"の自作方法の解説します。Joydraはニンテンドースイッチ Joy-ConとTundra Trackerから構成されます。Joydraは筆者がつけた便宜上の名称です。
Tundra Trackerとは
Tundra Tracker(以下Tundraトラッカー)は米国企業Tundra Labsが開発・販売するLighthouse(ベースステーション方式、SteamVRトラッキング)対応の超小型・超軽量トラッカー。一般販売価格は1台120ドル。
VIVEトラッカー3.0の55~76%の重さで一回り小さいボディにより、装着していることすら忘れるつけ心地。
重量の比較
大きさの比較
2021年3月30日にKickstarterにてクラウドファンディングを開始。5月18日までに3,836人が出資し1,377,847ドル(1億8700万円)を集めた。Kickstarter版は日本には2022年3月より到着し、4月には一般販売も開始され1時間未満で売り切れとなった。一般販売第2弾は2022年7月14日に予定されている。
Tundraトラッカーに関する情報はねぶいさんのブログが非常に詳しくまとまっている。
ツンドラトラッカー(Tundra Tracker)に関するメモ(2022年6月9日更新) - ねぶいのブログ (hatenablog.com)
Joydraの外観
Joy-Con先端の内側にTundra Trackerが前方に傾斜して結合されています。傾斜によりセンサーを殆ど隠すことなく結合されています。
通常通りJoy-Conをグリップすることも可能です。
トラッキングが安定していればTundra Trackerに指を添えて高速で振り回すことも可能です。
Joydraの長所
超軽量
左は約102g 右は約105g
主なVRコントローラーとの比較
Oculus Touchコントローラー 約150g
Valve Indexコントローラー 約200g
VIVEコントローラー 約203g
eteeコントローラー 142g
Pimax Swordコントローラー 230g
ポイント
最も軽いVRコントローラーであるOculus Touchコントローラー(Quest 2コントローラー)よりも明らかに軽く感じます。
特にBeatSaberには最適です。
バッテリー持続時間が長い
約8-12時間
主なVRコントローラーとの比較
Oculus Touchコントローラー 不明(数日?)
Valve Indexコントローラー 約7時間
VIVEコントローラー 約4時間
eteeコントローラー 約7時間
Pimax Swordコントローラー 約3時間
ポイント
Tundraトラッカーの動作時間はバッテリーの個体差により8~12時間と幅があります。
修理が容易
Joy-ConとTundraトラッカーを個別に交換可能
Joydraの短所
トラッキング性能が僅かに不利
赤外線センサー数が他のコントローラーより少なく、コントローラー専用トラッカーと比べて受光視野角も小さい可能性があるため状況によってはトラッキングが不安定になる。ベースステーション2台でもBeatSaberや通常の体勢なら殆どの場合は問題ないが、VRChatなどで特殊な姿勢を取ると不安定化する場合がある。ベースステーション2.0を3~4台設置するとトラッキングの不安定さは解消する。
主なVRデバイスとの赤外線センサー数の比較
Tundraトラッカー 18個
Valve Indexコントローラー 23個
VIVEコントローラー 24個
VIVEトラッカー2.0/3.0 20個
eteeコントローラー 20個
Pimax Swordコントローラー 26個
受光視野角の比較
Tundra トラッカー (非公表、VIVEトラッカー3.0よりトラッキングが不安定な報告があるため240度未満?)
VIVE トラッカー 3.0 240度
VIVEトラッカー 2.0 270度
eteeコントローラー 360度
非常に高価
約66800円+3Dプリント費用 (1ドル136円で計算)
1) Tundraトラッカー120ドルx3+送料21ドル+関税
→トラッカー2個セットは販売していないため3個セットが必要
2) Joy-Con 4114円 x2
→単品購入時
3) Driver4VR 1840円
→必須
4) Bluetoothドングル 1500円程度
→デスクトップPCがBluetooth非対応の場合
5) ダイレクト充電ケーブルSW 1200円程度
→必須ではないが充電に便利
6) 3Dプリント済みマウント
→必須
ポイント
Joydraは0から揃える場合、最も高価なコントローラーです。
触覚フィードバック(振動)は非対応
VRゲーム内で振動のフィードバックがないため臨場感に欠ける。
一部操作が不便
例えば、SteamVRオーバーレイのスクロールが滑らかにできない、VRChatの表情操作と移動・回転が不便。またトリガーのアナログ値が取れない点も純正のVIVEコントローラーとは異なる。場合によってはコントローラバインドのカスタマイズが必要な可能性がある。
フィンガートラッキング(指トラッキング)には非対応
VRChatで指を滑らかに動かすことができない。
対象者
- ベースステーションとHMD(VIVE/Valve Index)を持っている人
- とにかく軽量なLighthouseコントローラーが欲しい人
- とにかく長時間動作するLighthouseコントローラーが欲しい人
- PCVRヘッドセットの設定に慣れている人(特にSteamVRと同時起動するツールを導入したことがある人、例:OVR Advanced Settings, OVR Toolkit, XSOverlay, fpsVR)
- 部屋に反射物や死角になる家具が少なく安定したLighthouse環境がある人
所要時間
初回設定:30分〜1時間半
毎回起動時:1分未満
必要なもの
- VR対応PC
- PCVRヘッドマウントディスプレイ(VIVE/Index)
- ベースステーション1.0/2.0 x2(Joydraのトラッキングを完璧にするためにBS2.0 3~4台を設置できると理想的)
- Tundraトラッカー x2
次回一般発売2022/07/14 13:00開始
- Joy-Con L/R
- Joy-Con充電ケーブル → 必須ではないが再装着の手間が省けるため便利
ttps://www.amazon.co.jp/dp/B08CHCGQQV
- Bluetoothドングル(PCがBluetooth3.0非対応の場合)
動作確認済のもの ttps://www.amazon.co.jp/gp/product/B09QRP8FKG
- Driver4VR 1840円 SteamVRにて早期アクセス可能
Steam:Driver4VR (steampowered.com)
- 3Dプリント済みマウント
ねぶいさん(@Paratap_VRC)のご厚意により制作していただきました。
https://www.thingiverse.com/thing:5431167
前提
- SteamVRのPCVR環境が設定済みであること
- Tundraトラッカーがペアリング済みであること
- 必要であればBluetoothドングルを接続し、Bluetoothが有効化されていること
動作確認環境
- VIVE Pro Eye
- ベースステーション2.0 x2
- AMD Ryzen 9 5900X
- NVIDIA GeForce RTX3060(GeForceドライバ516.40)
- Windows 10 ビルド19044
- SteamVR beta 1.23.4
- Driver4VR 5.8.1.0
Joydraの仕組み
Joy-Con - (Bluetoothドングル) - Windows - Driver4VR →仮想VIVEコントローラー
Tundraトラッカー -(Watchmanドングル)-SteamVR - (TrackingOverrides)-トラッキング情報を仮想VIVEコントローラーへ上書き
設定手順
Step1 Tundraトラッカーのシリアル番号を確認する
トラッキング情報の参照元となるトラッカーのシリアル番号を確認します。
まずHMDをPCと正しく接続し電源を入れSteamVRを起動します。次にTundraトラッカーを一つだけオンにします(一つだけつけるのは後のシリアル番号確認の時にトラッカーの特定がしやすいため)。HMDは被らずデスクトップ上でSteamVR設定を開きます。画像のように進みトラッカーの管理ウィンドウをスクロールし緑色に点灯しているデバイスを発見します。
ここでLHR-からはじまる8桁の英数字をメモ帳に記録しておきます。それと同時に紙やマスキングテープなどを使ってTundraトラッカー本体上部にシリアルの一部を添付します。
続いてトラッカーの管理ウィンドウを開いたまま、もう一方のTundraトラッカーをオンにして、同様の手順でシリアル番号を記録しておきます。完了したらSteamVRを終了します。
Step2 SteamVR設定ファイルを編集しTrackingOverrides機能を有効化する
シリアル番号を記録した2つのTundraトラッカーから、左に使用するものと右に使用するものを決めます。
左右を決定したら、トラッカーのトラッキング情報を仮想VIVEコントローラー(後述)に上書きする設定をします。SteamVRの設定ファイルを編集して数行追加するだけです。
まずは、以下のフォルダを開きます(SteamVRのインストール先がデフォルトの場合)。
C:\Program Files (x86)\Steam\config
次にこのフォルダに有るsteamvr.vrsettingsファイルをメモ帳で開きます。
ファイルの冒頭に以下の内容を追加します(画像参照)。以下の内容をコピー&ペーストした上で、ステップ1で記録したトラッカーシリアル番号をLHR-の後に入力してください。その後上書き保存します。
末尾のカンマも必須なので注意。シリアル番号直後のクォーテーションマーク(")も必要なので過って消さないように気をつけてください。
"TrackingOverrides" : {
"/devices/lighthouse/LHR-(右Joydraのトラッカーシリアル番号)" : "/user/hand/right",
"/devices/lighthouse/LHR-(左Joydraのトラッカーシリアル番号)" : "/user/hand/left"
},
Step3 Joy-ConをPCにBluetooth接続する
Bluetoothとその他のデバイスウィンドウ(Windowsキー>設定>デバイス)を開きます。画像の手順を左右それぞれ行いJoy-Conを接続します。
ここでJoy-Con側面のペアリングボタンを長押し、ペアリング待機状態にします。すると下記画像のようにウィンドウにJoy-Conが出現するのでクリックすると「接続済み」ステータスになります。
完了後、Joy-Conのステータスが「接続済み」になっていることを確認して下さい。なお今後の手順の途中で接続が解除され「ペアリング済み」ステータスに移行することがあるかもしれません。「ペアリング済み」ステータスだと動作しないので、一度デバイス削除をして再度上記画像の手順を実行して下さい。
Step4 TundraトラッカーとJoy-Conを結合する
トラッカーとJoy-Conを結合させます。安定性と強度を確実にするには3Dプリントをしたマウントが理想的です。
ねぶいさん(@Paratap_VRC)が制作してくださりました。
https://www.thingiverse.com/thing:5431167
Step5 Driver4VRを購入しインストールする
SteamよりDriver4VRを購入しインストールします。
Steam:Driver4VR (steampowered.com)
起動をすると初回セットアップが開始し、しばらくするとSteamVRとDriver4VRが起動します。もし起動しない場合はSteam設定>スタートアップ>アドオンの管理>Driver4VRをオンにしてください。また、今後Driver4VRの自動起動を望まない場合(その都度手動で起動したい場合)は画像のチェックマークを外してください。
Step6 Driver4VRの仮想VIVEコントローラー機能を有効化する
Bluetooth接続したJoy-Conを仮想VIVEコントローラーに変換する設定を行います。操作が多いので画像をご覧ください。
最初にMain>Tracking>Hand trackingをVirtual Trackersに変更します。
次にMain>Tracking>Tracker Managerボタンを押し左のリストに仮想VIVEコントローラーが生成されていることを確認します。
そのまま、このウィンドウの"Open toggle device support window"ボタンを押しJoy-ConサポートをONにします。その後そのウィンドウを閉じて、"Update List of Devices"を押すと接続済みのJoy-Conが表示されます。
最後に画像の手順で左右それぞれの仮想VIVEコントローラーにJoy-Conを割り当てます。完了後Tracker Managerウィンドウは閉じてください。
Step7 Tundraトラッカーの電源をつけDriver4VRを実行状態にする
Tundraトラッカーの電源をつけSteamVRに認識されたら、Driver4VRメインウィンドウの左上にあるStartボタンを押します。
VIVEコントローラーアイコンが点灯したあと、仮想VIVEコントローラーが自動でTundraトラッカー基準のトラッキングに移行します。
これでJoydraの大部分は完成です。残りはトラッカーの角度と位置補正を追加するのみです。トラッカーやDriver4VRは起動したままにして次のステップに進んでください。
Step8 トラッカーの角度と位置補正を設定する
Driver4VRではデバイスごとに任意の角度・位置補正をかけることができます。ここではJoydraが正しい位置になるように補正値を入力します。細かな手順や数値入力が続くので画像をご覧ください。
まずDriver4VR>Utilities>General>Controller Shift/Offsetを選択します。
次にTracking devicesから右Joydraのトラッカーを選び、画像のようにHead relative offsetの4箇所に数値を入力します。これで右Joydraの補正は完了です。
続いて同様に左Joydraのトラッカーを選び、画像のように4箇所に数値を入力します。これで左Joydraの補正は完了です。
Step9 動作確認
Joydraが補正されて正しい位置にあることを確認したら終了です。
毎回の起動手順
1) Joy-Conをペアリングし「接続済み」ステータスになっていることを確認する
2) SteamVRを起動する
3) Tundraトラッカーを起動する
4) Driver4VRを起動する
5) 正常にトラッキングが出来ていることを確認する
Q&A
- トラッキングが安定しない
なるべく手でトラッカーを覆わないように持つようにしてください。部屋の家具による死角を減らしたり、反射物(エアコン、額縁、PCケースガラス等)を減らしたりしてください。ドングルをUSB2.0で接続し、VIVEトラッカー付属のドングルの場合は15cm以上離しましょう。それでも改善しない場合はベースステーション2.0の3~4台への増設をご検討ください。
- Joydraの入力がされない
Driver4VR起動前に確実にJoy-Conが「接続済み」ステータスになっていることを確認してください。「ペアリング済み」だと動作しないため、Driver4VRを終了(Stopではなくプログラムの終了)をして、デバイスを削除したのちに再度ペアリング、Driver4VRの起動をしてください。
参考リンク集
https://docs.tundra-labs.com/tracker_hardware/
仮まとめ driver4VRでJoy-Conを使用する際のセットアップ WindowsPC環境 - おひぎブログ (hatenablog.com)
ViveトラッカーでインサイドアウトのHMDをベースステーションに対応させる"OpenVR Tracking Overrides" - Ρの日本語練習ブログ (hatenablog.com)
謝辞
Joydraの公開にあたりトラッカー固定の助言や3Dプリントを利用した専用マウントの制作、本記事に基づいたテストをして下さったねぶいさんに心から感謝致します。細かな修正のたびに素早く対応してくださりスムーズに改良を重ねることができました。本当にありがとうございました。